東京高等裁判所 平成10年(行ケ)149号 判決 1999年6月30日
台湾
台北縣泰山郷明志路三段472号8樓
原告
黄陳淑霞
訴訟代理人弁理士
竹本松司
同
塩野入章夫
台湾
彰化縣鹿港鎮彰鹿路五段二巷51号
被告
黄萬得
訴訟代理人弁護士
香村博正
同
白井正明
同
白井典子
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成8年審判第40038号事件について、平成9年12月25日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、名称を「電動レンチ」とする実用新案登録第3017657号実用新案(平成7年5月2日実用新案登録出願、同年8月16日設定登録。以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。
被告は、平成8年11月6日、本件考案の実用新案登録を無効とする旨の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を、平成8年審判第40038号事件として審理したうえ、平成9年12月25日、「登録第3017657号実用新案の明細書の請求項第1項ないし第7項に記載された考案についての登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は、平成10年1月21日、原告に送達された。
2 本件考案の要旨
(1) 実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された考案(以下「本件考案1」という。)の要旨
一つのケーシングを有し、その内に一つのトルク供給源が設けられ、一つのトルクないし回転運動伝動機構を経てケーシング前端より突伸する一つの作動端頭に伝動する電動レンチであって、該トルクないし回転運動伝動機構は以下のもの、即ち、一つの中空の円柱状の本体とされ、一つの封閉端と一つの開口端を有し、その間が一つの円柱状環状側壁により連接されて一体とされ、該封閉端上には一つの同軸心に設置された突出部が設けられて該トルク供給源上に連接され、該本体上には一つの径方向凹口がその側壁上に形成されて一つの枢軸ピンで同じ形状及び大きさを有する一つの駆動部品が旋回可能な方式で該径方向凹口内に収容され、該駆動部品の二側はそれぞれ一つの翼部を有し、各翼部は駆動部品の中心部分から側向に遠心されて上には一つの外側末端部が形成され、該枢軸ピンは該駆動部品の中心部分を穿貫してこれら翼部に枢軸ピンを中心に一つの中立位置と一つの作動位置の間で上記本体に相対して回転させ、該中立位置とは翼部の外側末端部が本体の側壁と平面状を呈する位置を指し、作動位置とはこれら翼部の一つの外側末端部が内向きに移動して上記径方向凹口内に至る位置を指すものと、一つの出力軸とされ、一つの拡大末端を有し、該拡大末端上に二つの歯が設けられて、各歯はほぼ該拡大末端の半径に沿って延伸されて該拡大末端の環周方向に沿って相互に対面する平坦表面を有し、出力軸の拡大末端は旋回可能に該中空の本体内部に収容され、駆動部品がその中立位置にある時、該拡大末端は該本体内部で自由に旋回し、但し該駆動部品がその動作位置にある時、該拡大末端は該翼部の一つの外側末端部の平坦表面と接触して結合し一体を呈し、該出力軸のもう一つの末端はケーシングの前端から外に突伸して該作動端頭を構成するものと、一つの遠心式クラッチとされ、一つのデイスク状部品を有し、該デイスク状部品は軸方向に移動可能に本体の突出部上に套設されると共にその第1表面上に少なくとも一つの一体成形の制御ピンが設けられ、該制御ピンは移動可能に本体の封閉端上に設けられた一つの孔内に収容されて該封閉端において一つの噛合位置と一つの退出位置との間で移動可能とされ、その中、該噛合位置は制御ピンの自由端が該孔より穿出して該径方向凹口内に進入し駆動部品の下方に位置すると共に駆動部品と当接して一体を呈し駆動部品の枢軸ピンを中心とした旋回を防止する位置を指し、該退出位置は制御ピンの自由端が該孔より退出して駆動部品と分離し駆動部品を枢軸ピンを中心に旋回可能とする位置を指し、該遠心式クラッチは一つの基板を有し、該基板は本体封閉端の突出部上に固定されて共に回転可能とされ、一対の重りが回転可能な方式で該基板上に結合されると共にばねの作用により相互に引っ張られて位置移動可能とされ、本体が旋回する時、これら重りの発生する遠心力がばねの弾力を超過して重りを相互に分離する方向に移動させる時にこれら重りと該デイスク状部品の間に設けられた機械式連結装置にあって、重りが相互に移動して遠隔位置に至り、制御ピンがその噛合位置からその退出位置に至り、駆動部品に本体に相対する旋回を行わせ、その翼部を中立位置より作動位置に至らせ、出力軸の歯が相互に噛み合い、重りが分離位置から相互に近い位置に至る時は、制御ピンは退出位置から噛合位置に移動して駆動部品がその中立位置上に固定されるものと、ケーシング前端に装置された発光装置、以上を包括する、電動レンチ(以下「本件考案1」という。)。
(2) 同請求項2に記載された考案(以下「本件考案2」という。)の要旨
前記制御ピンの自由端上には傾斜する円錐状部が設けられる、請求項1に記載の電動レンチ。
(3) 同請求項3に記載された考案(以下「本件考案3」という。)の要旨
前記駆動部品は一つの傾斜辺縁を有し、それは本体の封閉端に対面し、制御ピンの円錐状末端動作に組み合わされ、制御ピンの自由端を合位置上に移動させる補助を行う、請求項2に記載の電動レンチ。
(4) 同請求項4に記載された考案(以下「本件考案4」という。)の要旨
前記デイスク状部品は一体成形された二つの制御ピンを有する、請求項1に記載の電動レンチ。
(5) 同請求項5に記載された考案(以下「本件考案5」という。)の要旨
前記発光装置は一つのバルブを包括する、請求項1に記載の電動レンチ。
(6) 同請求項6に記載された考案(以下「本件考案6」という。)の要旨
前記作動端頭上には一つの環状溝が設けられてそれに一つの弾性部品が収容され、該弾性部品上には外径が作動端頭よりわずかに大きいオープンリングが套設される、請求項1に記載の電動レンチ。
(7) 同請求項7に記載された考案(以下「本件考案7」という。)の要旨
前記弾性部品はゴムで製造され、オープンリングはスチールで製造される、請求項6に記載の電動レンチ。
3 審決の理由
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件考案1~7が、その出願前に頒布された刊行物である米国特許第4947939号明細書(審決甲第3号証、本訴甲第3号証、以下「引用例」という。)に記載された考案(以下「引用例考案」という。)に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるから、本件実用新案登録は、実用新案法3条2項の規定に違反してなされたものであり、同法37条1項2号に該当し、無効にすべきものであるとした。
第3 原告主張の取消事由の要点
審決の理由中、本件考案の要旨1~7の認定、引用例考案の認定(審決書10頁3~6行、12頁2~5行、15頁2~7行を除く。)、本件考案と引用例考案との一致点及び相違点a~iの認定、相違点a、b及びd~iについての判断は、いずれも認める。
審決は、引用例考案の技術内容を誤認する(取消事由1)とともに、相違点cに関する判断を誤って、本件考案の有する顕著な作用効果を看過した(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 取消事由1(引用例考案の誤認)
審決は、引用例考案について、「スピンドルホルダ35に取り付けられたブレーキソケット32にさらに取り付けられた遠心エレメント31(第3、4、5図を特に参照。)」(審決書10頁3~6行)、「遠心エレメント31はブレーキソケット32を介してスピンドルホルダ35に取り付けられていることから、何らかの基板に相当するものを備えていることも明確である。」(同12頁2~5行)、「該遠心式クラッチは一つの基板を有し、該基板はスピンドルホルダ35に固定されて共に回転可能とされ、一対の重りが回転可能な方式で該基板上に結合されると共にばねの作用により相互に引っ張られて位置移動可能とされ」(同15頁2~7行)と認定したが、引用例には、遠心エレメント31がブレーキソケット32に取り付けられる具体的構成がなんら示されておらず、基板の存在も認めることができないから誤りである。
すなわち、引用例(甲第3号証)には、遠心エレメント31とブレーキソケット32との位置関係について、スピンドルホルダ35がスイベルエレメント33及びブレーキソケット32を貫通し、遠心エレメント31の後部においてフランジ394がスピンドルホルダ35の端部に取り付けられるとのみ記載されている(同号証訳文5頁1~6行)にすぎない。これに対し、本件明細書(甲第2号証)の記載(同号証明細書7頁2~6行)によれば、本件考案の基板25は、遠心式クラッチ20に設けられて、その1構成部分であるディスク状部品24を滑落しないように保持することを1つの目的としており、また、引用例考案のようにスピンドルホルダに該当する部材がないから、ブレーキソケット32(本件考案のディスク状部品24)を介して遠心エレメント31(本件考案の遠心式クラッチ20)をスピンドルホルダ35に取り付けるものではなく、この点においても引用例考案とは異なるのである。
2 取消事由2(顕著な作用効果の看過)
審決が、相違点cに関する判断において、本件考案1が有する、中立位置では駆動部品が本体に対し左右対称な位置で固定され、出力軸との伝動が断たれる機能について、「その時に駆動部品の翼部の外側末端部が本体側壁と平面状を呈する位置とするかどうかは、単なる設計上の事項に過ぎない。」(審決書21頁2~4行)と判断したことは誤りである。
すなわち、本件考案1は、駆動部品の翼部の外側末端部が本体側壁と平面状を呈する位置とすることによって、駆動部品と本体の円柱状周囲側壁とは連続する円柱状の表面を形成し、これによって、該回転体の重量バランスを均一とし、このため駆動部品と本体とからなる回転体を高速で回転させることができるという格別の作用効果を奏するものである。審決が、本件考案1の相違点cに係る構成を、単なる設計上の事項にすぎないと判断したことは、こうした顕著な作用効果を看過したものであって誤りである。
第4 被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。
1 取消事由1について
引用例考案について、引用例の第1図によれば、その遠心エレメント26には、1つの基板が設けられ、それには方形中心孔263が存して、円筒体20の突出部上の一つの方形部上に套設及び固定されるのに用いられる。当該基板は、突出部上に固定され、ディスク状部品27が円筒体の突出部上より滑落するのを防止するストッパとされる構造が開示されているので、この基板は本件考案の基板25に相当する。
原告は、引用例には遠心エレメント31がブレーキソケット32に取り付けられる具体的構成が示されていない旨主張するが、引用例の図3の31で示された部材が、本件考案の基板に相当し、また、引用例の図5では、両側がスプリングにより連結されたヒレ311、312を有する1個の遠心エレメントと表示されたものが、基板31であり、その基板がスピンドルホルダ35を保持していることは、同図4でスピンドルホルダ35と基板31の嵌合状態から明らかである。
また、引用例の実施例の詳細な説明において、遠心力が発生するようにヒレ311、312を駆動するため、遠心エレメント31が回転駆動されると、その過程で位置決めピン321がスイベルエレメント33のピン孔332から外れ、ブレーキソケット32は、遠心エレメント内に強固に固定される旨が記載されている(甲第3号証訳文5頁10~14行)ことからみても、遠心エレメント31とブレーキソケット32とを結合させる機能を有する基板が存在していることは明らかである。
したがって、審決における引用例考案の認定(審決書10頁3~6行、12頁2~5行、15頁2~7行)に誤りはない。
2 取消事由2について
本件考案1及び引用例考案において、中立位置では駆動部品が本体に対し左右対称な位置で固定され、出力軸との伝動が断たれることは必須の機能であり、その時に駆動部品の翼部の外側末端部を本体側壁と平面状を呈する位置とするかどうかは、単なる設計上の事項にすぎない。
したがって、この点に関する審決の判断(審決書21頁2~4行)に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 引用例考案の誤認(取消事由1)について
審決の理由中、本件考案1~7の要旨の認定、引用例考案の認定(審決書10頁3~6行、12頁2~5行、15頁2~7行を除く。)、本件考案と引用例考案との一致点及び相違点a~iの認定、相違点a、b及びd~iについての判断は、いずれも当事者間に争いがない。
引用例考案について、引用例(甲第3号証)には、「本発明は、ボルト及びナットを回転するモーター付携帯用工具に関する。本発明によれば、ボルト及びナットを回転させるためのモーター付ボルト駆動工具は、一般に、以下により構成される。即ち、1台のモーターを収納する1個の筺体、スプリングで連結された一対のヒレから構成される一つの遠心エレメント、2個の保持用端部となる後端部における1個のアーチ型突起部を有する1本の心棒から構成される1本のスピンドル、夫々が1個のスイベル・エレメントに挿入される一対のユニタリー・ピンを有する1個のブレーキ・ソケット、ブレーキ・エレメントの位置決め用の1個の凹口及びブレーキ・ソケットの2個のピンを挿入するための2個のピン孔とを有する1個のスイベル・エレメント、及びスピンドルを保持するためにスイベル・エレメント内に受入れられるスピンドル・ホルダー。モーターが始動すると、遠心エレメントはブレーキ・ソケットをスイベル・エレメントから離脱せしめ且つブレーキ・エレメントが振子状に回転してスイベル・エレメントの凹口内に入り込むことを許容し、これにより、スピンドルが駆動されて時計回り又は反時計回りに回転することによりボルト及びナットを更に回転させる。」(同号証訳文2頁1.発明の利用分野)、「両側において、スプリングにより連結されたヒレ311と312を有する1個の遠心エレメント31」(同4頁17~18行)、「モーターMは、遠心移動を生じるようにヒレ部311と312を動かすべく遠心エレメント31を働かすために、駆動される。遠心移動の過程において、ブレーキ・ソケット32は、その位置決めピン321がスイベル・エレメント33のピン孔332から外れて、遠心エレメント31内に強固に固定されるように駆動され、これにより、ブレーキ・エレメント34は枢軸ピン33A上を回転し且つスピンドル36の何れかの突出端部361と更に係合できるようになる(図6A及び6Bを参照)。」(同5頁10~16行)と記載されている。
これらの記載及び引用例図3~5並びに当事者間に争いがないところの「重りが分離位置から相互に近い位置に至る時は、ピン321は退出位置から噛合位置に移動してブレーキエレメント34がその中立位置上に固定される」(審決書15頁17~20行)との引用例の記載によれば、引用例考案は、モーターが始動すると、遠心エレメントのヒレ部における遠心力の作用により、ブレーキソケットが、スイベルエレメントから離脱し、これに伴い、ブレーキエレメントが振子状に回転してスイベルエレメントの凹口内に入り込み、スピンドルが駆動されて回転することにより、ボルト及びナットを更に回転させるものであるが、スピンドルの回転が遅くなると、スピンドルホルダの回転も連動して遅くなるので、遠心力が遠心エレメントのばねの弾力に負け、ヒレ部は元の状態に復帰するよう移動し、ブレーキソケットも遠心移動を開始する前の位置(中立位置)への復帰を開始し、位置決めピンがスイベルエレメントのピン孔に挿入され、これにより、ブレーキエレメントとスピンドルも係合しなくなるものと認められる。したがって、引用例考案の遠心エレメント31、ブレーキソケット32、ブレーキエレメント34、スイベルエレメント33、スピンドル36は、本件考案の遠心式クラッチ20、ディスク状部品24、駆動部品30、本体10、出力軸40の各構成要素に相当し、その機能・作用は同一であると認められる。
そうすると、引用例考案では、一対の重りが形成された遠心エレメントは、遠心力の強弱に応じて、位置決めピンが固定されたブレーキソケットを、スイベルエレメントに近付けたり離したりするように移動させるものであるから、遠心エレメントにおける遠心力の作用が伝達できるようにブレーキソケットと連結的に形成されていることは当然であり、その際に、ブレーキソケットを移動させる力の反力を受けるために固定部材が必要不可欠であることも、技術常識上明白なことであって、当業者であれば、その固定される箇所は、図3~5に開示された引用例考案の構成から見て、スピンドルホルダ35であると容易に把握できるものといえる。
原告は、引用例に、遠心エレメント31がブレーキソケット32に取り付けられる具体的構成が示されておらず、本件考案の基板に相当する部材の存在も認めることができないと主張する。
たしかに、引用例には、遠心エレメントとブレーキソケットとの連結の態様及び遠心エレメントとスピンドルホルダとの固定の具体的態様が、いずれも直接的には記載されてはいないが、前示のとおり、引用例考案の構成において、遠心エレメントとブレーキソケットとの一体的回転や、遠心力の強弱に応じたブレーキソケットのスイベルエレメントに対する離脱及び接近という機能を考慮した場合、遠心エレメントとブレーキソケットとが連結的に構成されるとともに、遠心エレメントがスピンドルホルダに固定部材により固定されていることは、技術常識上明らかであり、この固定部材は、本件考案において遠心式クラッチと本体の突出部を固定する基板に相当するものと認められるから、原告の上記主張を採用する余地はない。
また、原告は、本件考案の基板が、遠心式クラッチに設けられて、その1構成部分であるディスク状部品を滑落しないように保持することを1つの目的としており、また、引用例考案のようにスピンドルホルダに該当する部材がないから、ブレーキソケット32を介して遠心エレメント31をスピンドルホルダ35に取り付けるものではなく、この点においても引用例考案とは異なると主張する。
しかし、前示のとおり、引用例考案においては、遠心エレメントが、本体との間にブレーキソケットを介してスピンドルホルダに固定的に取り付けられるものと認められ、この場合、本件考案のディスク状部品に相当するブレーキソケットを、滑落しないように保持することは明らかである。また、引用例考案において、遠心エレメントが固定されるスピンドルホルダは、スイベルエレメントと一体的に回転するものであるところ、本件考案には、このスピンドルホルダ自体は存しないが、スイベルエレメントに相当する本体に突出部が設けられており、この突出部に基板が固定され、遠心式クラッチも固定されるものであるから、その機能・構成において引用例考案と相違するところはなく、原告の上記主張は採用することができない。
以上のとおり、審決が、引用例考案について、「スピンドルホルダ35に取り付けられたブレーキソケット32にさらに取り付けられた遠心エレメント31(第3、4、5図を特に参照。)」(審決書10頁3~6行)、「遠心エレメント31はブレーキソケット32を介してスピンドルホルダ35に取り付けられていることから、何らかの基板に相当するものを備えていることも明確である。」(同12頁2~5行)、「該遠心式クラッチは一つの基板を有し、該基板はスピンドルホルダ35に固定されて共に回転可能とされ、一対の重りが回転可能な方式で該基板上に結合されると共にばねの作用により相互に引っ張られて位置移動可能とされ」(同15頁2~7行)と認定したことに、いずれも誤りはない。
2 作用効果の看過(取消事由2)について
原告は、本件考案1が、中立位置では、駆動部品の翼部の外側末端部が本体側壁と平面状を呈する位置とする(相違点cに係る構成)ことによって、駆動部品と本体の円柱状周囲側壁とは連続する円柱状の表面を形成し、これによって、該回転体の重量バランスを均一として、駆動部品と本体とからなる回転体を高速で回転させることができるという格別の作用効果を奏するから、審決が、こうした作用効果を看過して、本件考案1の相違点cに係る構成を、単なる設計上の事項にすぎないと判断したことは、誤りであると主張する。
本件考案1は、相違点cに係る構成である、駆動部品の翼部の外側末端部が本体側壁と平面状を呈する位置とすることにより、駆動部品と本体の円柱状周囲側壁とが連続する円柱状の表面を形成したものであるが、当該本体自体が円柱状の形状を有するのであるから、該外側末端部の形状は、この本体の側壁の形状に揃えたものにすぎず、当業者ならば格別の困難性なく推考できたものといえる。また、このような形状をとることにより、該回転体の重量バランスをより均一として高速回転できるという作用効果についても、電動レンチにおける回転件の通常予定される重量と回転速度を考慮すれば、当業者が、容易に予測できる範囲内のものということができ、格別のものとは認められないから、原告の主張を採用する余地はない。
したがって、審決が、「駆動部品の翼部の外側末端部が本体側壁と平面状を呈する位置とするかどうかは、単なる設計上の事項に過ぎない。」(審決書21頁2~4行)と判断したことに誤りはない。
3 以上のとおり、原告の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。
よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成8年審判第40038号
審決
台湾彰化縣鹿港鎮彰鹿路五段二巷51号
請求人 黄萬得
東京都葛飾区西新小岩1丁目7番9-603号
代理人弁護士 香村博正
東京都千代田区内神田2丁目5番5号 城南ビル6階
代理人弁護士 白井正明
東京都千代田区内神田2丁目5番5号 城南ビル6階
代理人弁護士 白井典子
台湾台北縣泰山郷明志路三段472号8楼
被請求人 黄陳淑霞
東京都港区虎ノ門1丁目23番10号 山縣ビル2階 あいわ内外特許事務所
代理人弁理士 竹本松司
上記当事者間の登録第3017657号実用新案「電動レンチ」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
登録第3017657号実用新案の明細書の請求項第1項ないし第7項に記載された考案についての登録を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
1.本件考案
本件登録第3017657号実用新案(平成7年5月2日実用新案登録出願。平成7年8月16日設定登録。)の請求項1~7に係る考案は、その明細書及び図面の記載からみて、それぞれ実用新案登録請求の範囲の請求項1~7に記載された次のとおりのものと認める。
ただし、前記明細書の請求項6に記載の「作動端類」は「作動端頭」の誤記として認定した。
「(1)一つのケーシングを有し、その内に一つのトルク供給源が設けられ、一つのトルクないし回転運動伝動機構を経てケーシング前端より突伸する一つの作動端頭に伝動する電動レンチであって、該トルクないし回転運動伝動機構は以下のもの、即ち、一つの中空の円柱状の本体とされ、一つの封閉端と一つの開口端を有し、その間が一つの円柱状環状側壁により連接されて一体とされ、該封閉端上には一つの同軸心に設置された突出部が設けられて該トルク供給源上に連接され、該本体上には一つの径方向凹口がその側壁上に形成されて一つの枢軸ピンで同じ形状及び大きさを有する一つの駆動部品が旋回可能な方式で該径方向凹口内に収容され、該駆動部品の二側はそれぞれ一つの翼部を有し、各翼部は駆動部品の中心部分から側向に遠心されて上には一つの外側末端部が形成され、該枢軸ピンは該駆動部品の中心部分を穿貫してこれら翼部に枢軸ピンを中心に一つの中立位置と一つの作動位置の間で上記本体に相対して回転させ、該中立位置とは翼部の外側末端部が本体の側壁と平面状を呈する位置を指し、作動位置とはこれら翼部の一つの外側末端部が内向きに移、動して上記径方向凹口内に至る位置を指すものと、一つの出力軸とされ、一つの拡大末端を有し、該拡大末端上に二つの歯が設けられて、各歯はほぼ該拡大末端の半径に沿って延伸されて該拡大末端の環周方向に沿って相互に対面する平坦表面を有し、出力軸の拡大末端は旋回可能に該中空の本体内部に収容され、駆動部品がその中立位置にある時、該拡大末端は該本体内部で自由に旋回し、但し該駆動部品がその動作位置にある時、該拡大末端は該翼部の一つの外側末端部の平坦表面と接触して結合し一体を呈し、該出力軸のもう一つの末端はケーシングの前端から外に突伸して該作動端頭を構成するものと、一つの遠心式クラッチとされ、一つのデイスク状部品を有し、該デイスク状部品は軸方向に移動可能に本体の突出部上に套設されると共にその第1表面上に少なくとも一つの一体成形の制御ピンが設けられ、該制御ピンは移動可能に本体の封閉端上に設けられた一つの孔内に収容されて該封閉端において一つの噛合位置と一つの退出位置との間で移動可能とされ、その中、該噛合位置は制御ピンの自由端が該孔より穿出して該径方向凹口内に進入し駆動部品の下方に位置すると共に駆動部品と当接して一体を呈し駆動部品の枢軸ピンを中心とした旋回を防止する位置を指し、該退出位置は制御ピンの自由端が該孔より退出して駆動部品と分離し駆動部品を枢軸ピンを中心に旋回可能とする位置を指し、該遠心式クラッチは一つの基板を有し、該基板は本体封閉端の突出部上に固定されて共に回転可能とされ、一対の重りが回転可能な方式で該基板上に結合されると共にばねの作用により相互に引っ張られて位置移動可能とされ、本体が旋回する時、これら重りの発生する遠心力がばねの弾力を超過して重りを相互に分離する方向に移動させる時にこれら重りと該デイスク状部品の間に設けられた機械式連結装置にあって、重りが相互に移動して遠隔位置に至り、制御ピンがその噛合位置からその退出位置に至り、駆動部品に本体に相対する旋回を行わせ、その翼部を中立位置より作動位置に至らせ、出力軸の歯が相互に噛み合い、重りが分離位置から相互に近い位置に至る時は、制御ピンは退出位置から噛合位置に移動して駆動部品がその中立位置上に固定されるものと、ケーシング前端に装置された発光装置、以上を包括する、電動レンチ。」
(以下、「本件考案1」という。)
「(2)前記制御ピンの自由端上には傾斜する円錐状部が設けられる、請求項1に記載の電動レンチ。」(以下、「本件考案2」という。)
「(3)前記駆動部品は一つの傾斜辺縁を有し、それは本体の封閉端に対面し、制御ピンの円錐状末端動作に組み合わされ、制御ピンの自由端を合位置上に移動させる補助を行う、請求項2に記載の電動レンチ。」(以下、「本件考案3」という。)
「(4)前記デイスク状部品は一体成形された二つの制御ピンを有する、請求項1に記載の電動レンチ。」(以下、「本件考案4」という。)
「(5)前記発光装置は一つのバルブを包括する、請求項1に記載の電動レンチ。」(以下、「本件考案5」という。)
「(6)前記作動端頭上には一つの環状溝が設けられてそれに一つの弾性部品が収容され、該弾性部品上には外径が作動端頭よりわずかに大きいオープンリングが套設される、請求項1に記載の電動レンチ。」(以下、「本件考案6」という。)
「(7)前記弾性部品はゴムで製造され、オープンリングはスチールで製造される、請求項6に記載の電動レンチ。」(以下、「本件考案7」という。)
2.引用例
これに対して、請求人の提出した甲第3号証刊行物(米国特許第4947939号明細書)には、次の事項が記載されている。
(1)一つのケーシングを有し、その内に一つのトルク供給源であるモータMが設けられ、一つのトルクないし回転運動伝動機構を経てケーシング前端より突伸する一つのスケアボルト363に伝動する電動レンチであって、該トルクないし回転運動伝動機構は以下のもの、即ち、一つの中空の円柱状のスイベルエレメント33とされ、一つの封閉端(第4図断面図におけるエレメント33の右端部)と一つの開口端(第4図断面図における左端部)を有し、その間が一つの円柱状環状側壁により連接されて一体とされ、該封閉端上には一つの同軸心に設置されたスピンドルホルダ35が突出して設けられて該トルク供給源上に連接され、該スイベルエレメント33上には一つの径方向凹口333がその側壁上に形成されて一つの枢軸ピン33Aで同じ形状及び大きさを有する一つのブレーキエレメント34が旋回可能な方式で該径方向凹口内に収容され、該ブレーキエレメント34の二側はそれぞれ一つの翼部を有し、各翼部はブレーキエレメント34の中心部分から側向に遠心されて上には一つの外側末端部が形成され(特に第3図を参照。)、該枢軸ピン33Aは該ブレーキエレメント34の中心部分を穿貫してこれら翼部に枢軸ピンを中心に一つの中立位置と一つの作動位置の間で上記スイベルエレメント33に相対して回転させ、作動位置とはこれら翼部の一つの外側末端部が内向きに移動して上記径方向凹口内に至る位置を指すものと、一つのスピンドル36が、一つの拡大末端を有し、該拡大末端上に二つの歯361が設けられて、各歯はほぼ該拡大末端の半径に沿って延伸されて該拡大末端の環周方向に沿って相互に対面する平坦表面を有し、スピンドルの拡大末端は旋回可能に該中空のスイベルエレメント33内部に収容され、ブレーキエレメント34がその中立位置にある時、該拡大末端は該スイベルエレメント33内部で自由に旋回し、但し該ブレーキエレメント34がその動作位置にある時、該拡大末端は該翼部の一つの外側末端部の平坦表面と接触して結合し一体を呈し、該スピンドル36のもう一つの末端はケーシングの前端から外に突伸してスケアボルト363を構成するものと、ブレーキソケット32は一つのデイスク状部品(第3図図示のブレーキソケット32の円盤部分)を有し、該デイスク状部品は軸方向に移動可能にスピンドルホルダ35上に套設されると共にその第1表面上に2本のピン321が設けられ、該ピン321は移動可能にスイベルエレメント33の封閉端上に設けられた孔内に収容されて該封閉端において一つの噛合位置と一つの退出位置との間で移動可能とされ、その中、該噛合位置はピンの自由端が該孔より穿出して該径方向凹口内に進入しブレーキエレメント34の下方に位置すると共にブレーキエレメント34と当接して一体を呈しブレーキエレメント34の枢軸ピンを中心とした旋回を防止する位置を指し、該退出位置はピンの自由端が該孔より退出してブレーキエレメント34と分離しブレーキエレメント34を枢軸ピンホルダを中心に旋回可能とする位置を指し、またスピンドル35に取り付けられたブレーキソケット32にさらに取り付けられた遠心エレメント31(第3、4、5図を特に参照。)がばねで相互に連結された一対のフィン311、312を有しているものである電動レンチ。
(2)モータMの駆動により、遠心エレメント31が回転し、フィン311、312に遠心力が作用するものであること。(明細書第3欄第22~26行の「Through~movement.」を特に参照。)
(3)遠心力がフィン311、312に作用することにより、ブーレーキソケット32は遠心エレメント31に引き寄せられ、ピン321はスイベルエレメント33のピン孔332から離れる方へ移動し、ブレーキエレメント34が枢軸ピン33Aを中心として旋回してスピンドル36の歯361のどちらかと結合される。こうして、回転力はスケアボルト363に伝動され、スクリューボルト又はナットが回転されること。(明細書第3欄第26行~第4欄第2行の「During~nut.」を特に参照。)
(4)ケーシングの前方下方に断面円形を有する何らかの部品が設けられていること。(第4図断面図の左下方を参照。)
(5)スピンドル36のスケアボルト363の環状溝に外径がわずかに大きいオープンリングが套設されていること。(第3、4図を特に参照。)
ここで、遠心エレメント31とブレーキソケット32は前記(1)のとおり、両者ともにスピンドルホルダ35に取り付けられ、前記(2)のとおり、遠心エレメント31のフィン311、312は遠心力を受けるためのものであること、さらに前記(3)のとおり、それによりブレーキソケット32のピン321の動作によって、スピンドル36への回転力の伝動、非伝動を切り換えるものであることから、遠心エレメント31とブレーキソケット32が相俟って遠心クラッチを形成していること、及びフィン311、312が重りから成っていることは明確である。
また、遠心エレメント31はブレーキソケット32を介してスピンドルホルダ35に取り付けられていることから、何らかの基板に相当するものを備えていることも明確である。
してみると、結局、甲第3号証刊行物には、次のものが記載されているものと認められる。
「一つのケーシングを有し、その内に一つのトルク供給源が設けられ、一つのトルクないし回転運動伝動機構を経てケーシング前端より突伸する一つのスケアボルト363に伝動する電動レンチであって、該トルクないし回転運動伝動機構は以下のもの、即ち、一つの中空の円柱状のスイベルエレメント33とされ、一つの封閉端と一つの開口端を有し、その間が一つの円柱状環状側壁により連接されて一体とされ、該封閉端上には一つの同軸心に設置されたスピンドルホルダ35が突出して設けられて該トルク供給源上に連接され、該スイベルエレメント33上には一つの径方向凹口333がその側壁上に形成されて一つの枢軸ピン33Aで同じ形状及び大きさを有する一つのブレーキエレメント34が旋回可能な方式で該径方向凹口内に収容され、該ブレーキエレメント34の二側はそれぞれ一つの翼部を有し、各翼部はブレーキエレメント34の中心部分から側向に遠心されて上には一つの外側末端部が形成され、該枢軸ピン33Aは該ブレーキエレメント34の中心部分を穿貫してこれら翼部に枢軸ピンを中心に一つの中立位置と一つの作動位置の間で上記スイベルエレメント33に相対して回転させ、作動位置とはこれら翼部の一つの外側末端部が内向きに移動して上記径方向凹口内に至る位置を指すものと、一つのスピンドル36が、一つの拡大末端を有し、該拡大末端上に二つの歯361が設けられて、各歯はほぼ該拡大末端の半径に沿って延伸されて該拡大末端の環周方向に沿って相互に対面する平坦表面を有し、スピンドル36の拡大末端は旋回可能に該中空のスイベルエレメント33内部に収容され、ブレーキエレメント34がその中立位置にある時、該拡大末端は該スイベルエレメント33内部で自由に旋回し、但し該ブレーキエレメント34がその動作位置にある時、該拡大末端は該翼部の一つの外側末端部の平坦表面と接触して結合し一体を呈し、該スピンドル36のもう一つの末端はケーシングの前端から外に突伸して前記スケアボルト363を構成するものと、一つの遠心式クラッチとされ、一つのデイスク状部品を有し、該デイスク状部品は軸方向に移動可能にスピンドルホルダ35上に套設されると共にその第1表面上に2本のピン321が設けられ、該ピン321は移動可能にスイベルエレメント33の封閉端上に設けられた孔内に収容されて該封閉端において一つの噛合位置と一つの退出位置との間で移動可能とされ、その中、該噛合位置はピンの自由端が該孔より穿出して該径方向凹口内に進入しブレーキエレメント34の下方に位置すると共にブレーキエレメント34と当接して一体を呈しブレーキエレメント34の枢軸ピンを中心とした旋回を防止する位置を指し、該退出位置はピンの自由端が該孔より退出してブレーキエレメント34と分離しブレーキエレメント34を枢軸ピン33Aを中心に旋回可能とする位置を指し、該遠心式クラッチは一つの基板を有し、該基板はスピンドルホルダ35に固定されて共に回転可能とされ、一対の重りが回転可能な方式で該基板上に結合されると共にばねの作用により相互に引っ張られて位置移動可能とされ、スイベルエレメント33が旋回する時、これら重りの発生する遠心力がばねの弾力を超過して重りを相互に分離する方向に移動させる時にこれら重りと該デイスク状部品の間に設けられた機械式連結装置にあって、重りが相互に移動して遠隔位置に至り、ピン321がその噛合位置からその退出位置に至り、ブレーキエレメント34にスイベルエレメント33に相対する旋回を行わせ、その翼部を中立位置より作動位置に至らせ、スピンドル36の歯361が相互に噛み合い、重りが分離位置から相互に近い位置に至る時は、ピン321は退出位置から噛合位置に移動してブレーキエレメント34がその中立位置上に固定されるものと、ケーシング前端に装置された何らかの断面円形を有する部品、以上を包括する、電動レンチ。」
「前記電動レンチにおいて、スピンドル36のスケアボルト363の環状溝に外径がわずかに大きいオープンリングが套設されていること」
3.本件考案と引用例との対比
甲第3号証刊行物に記載されたものにおける「スイベルエレメント33」、「ブレーキエレメント34」、「スピンドル36」、「スケアボルト363」、「ピン321」は、それぞれその機能からして、本件各考案における「本体」、「駆動部品」、「出力軸」、「作動端頭」、「制御ピン」に相当することから、本件各考案は、甲第3号証刊行物に記載のものに対し、次の点で相違し、その他の点は一致している。
(1)本件考案1
a)突出部について、本件考案1においては本体に突出部が設けられているのに対し、甲第3号証刊行物に記載のものでは突出部に対応するスピンドルホルダ35が本体と別部材として設けられている点
b)ケーシング前端に装置された部品について、本件考案1においては発光装置であるのに対し、甲第3号証刊行物に記載のものでは、何らかの断面円形の部品である点
c)本件考案1においては、中立位置では翼部の外側末端部が本体の側壁と平面状を呈する位置であるのに対し、甲第3号証刊行物に記載のものでは、そのような構成となっていない点
d)制御ピンについて、本件考案においてはデイスク状部品と一体成形となっているのに対し、甲第3号証刊行物に記載のものでは、一体成形かどうか不明である点
(2)本件考案2
上記a、b、c、dに加え、
e)本件考案2においては、制御ピンの自由端には傾斜する円錐状部が設けられているのに対し、甲第3号証刊行物に記載のものでは、そのような構成となっていない点
(3)本件考案3
上記a、b、c、d、eに加え、
f)本件考案3においては、駆動部品は一つの傾斜辺縁を有し、それは本体の封閉端に対面し制御ピンの円錐状末端動作に組み合わされ、制御ピンの自由端を合位置上に移動させる補助を行うものであるのに対し、甲第3号証刊行物に記載されたものでは、そのような構成となっていない点
(4)本件考案4
上記a、b、c、d
(5)本件考案5
上記a、c、dに加え、
g)ケーシング前端に装置された部品について、本件考案5においては一つのバルブを包括する発光装置であるのに対し、甲第3号証刊行物に記載のものでは、何らかの断面円形の部品である点
(6)本件考案6
上記a、b、c、dに加え、
h)本件考案6においては、環状溝には弾性部品が収容されてその上にオープンリングが套設されているのに対し、甲第3号証刊行物に記載のものでは、弾性部品が設けられていない点
(7)本件考案7
上記a、b、c、dに加え、
i)本件考案6においては、環状溝にはゴム製の弾性部品が収容されてその上にスチール製のオープンリングが套設されているのに対し、甲第3号証刊行物に記載のものでは、ゴム製の弾性部品が設けられておらず、オープンリングもスチール製かどうか不明である点
4.当審の判断
次に、上記相違点につき検討する。
(1)本件考案1
相違点a)甲第3号証刊行物に記載のものにおいて、本体とスピンドルホルダ35はトルク供給源からのトルクを受けて、一体となって回転運動を行うものであることから、当初から両者を一体のものとして形成し、本件考案1の構成とすることは、そのような変更を妨げる理由もなく、当業者が極めて容易に想到し得たものと言える。
相違点b)甲第3号証の第4図の記載では、前記何らかの部品が発光装置であることは明確でないが、断面円形であることから、通常の発光バルブと形状が一致しており、しかも、手持ち工具において、発光装置をケース前端に設けることが周知である(例えば実願平3-10884号(実開平4-13016号)のマイクロフィルム、実願昭57-95125号(実開昭58-196070号)のマイクロフィルムを参照。)ことから、甲第3号証刊行物に記載のものにおける何らかの部品を発光装置とすることに、格別の困難性も認められない。
相違点c)甲第3号証刊行物に記載のもの及び本件考案1において、中立位置では駆動部品が本体に対し左右対称な位置で固定され、出力軸との伝動が断たれることが必要な機能であり、その時に駆動部品の翼部の外側末端部が本体側壁と平面状を呈する位置とするかどうかは、単なる設計上の事項に過ぎない。
相違点d)甲第3号証刊行物に記載のものでは、制御ピンはデイスク状部品に設けられてこれと一体的に機能するものであることから、これを一体成形とすることに何らの困難性も認められない。
以上から、本件考案1は、甲第3号証刊行物に記載のものに基づいて、極めて容易に考案をすることができたものである。
(2)本件考案2
上記a、b、c、dの相違点については、前記と同様である。
相違点e)一般に部材同士を移動案内する場合に、部材の接触部に傾斜を施して案内を円滑にすることは、周知の技術に過ぎず、そのことから制御ピンの駆動部品との案内部である自由端に傾斜する円錐状部を形成することは、極めて容易になし得る事項に過ぎない。
以上から、本件考案2は、甲第3号証刊行物に記載のものに基づいて、極めて容易に考案をすることができたものである。
(3)本件考案3
上記a、b、c、d、eの相違点については、前記と同様である。
相違点f)一般に部材同士を移動案内する場合に、部材の接触部に傾斜を施して案内を円滑にすることは、前記相違点eで述べたとおり周知の技術に過ぎず、そのことから駆動部品の制御ピンとの案内部である本体の封閉端に対面部に傾斜辺縁を形成しで、本件考案3の構成とすることは、極めて容易になし得る事項に過ぎない。
以上から、本件考案3は、甲第3号証刊行物に記載のものに基づいて、極めて容易に考案をすることができたものである。
(4)本件考案4
上記a、b、c、dの相違点については、上記と同様である。
以上から、本件考案4は、甲第3号証刊行物に記載のものに基づいて、極めて容易に考案をすることができたものである。
(5)本件考案5
上記a、c、dの相違点については、上記と同様である。
相違点g)発光装置は、通常バルブを有するものであり、相違点bの検討で記載した周知例のものもバルブを備えたものであることから、相違点bでの検討で述べたと同様の理由により、甲第3号証刊行物に記載のものにおいて、ケーシング前端に装置された部品が一つのバルブを包括する発光装置とすることに格別の困難性は認められない。
以上から、本件考案5は、甲第3号証刊行物に記載のものに基づいて、極めて容易に考案をすることができたものである。
(6)本件考案6
上記a、b、c、dの相違点については、上記と同様である。
相違点h)オープンリングを用いた嵌合わせにおいて、弾性体を溝に収容した上でオープンリングを套設することは周知である(例えば実願昭59-179182号(実開昭61-93611号)のマイクロフィルム、実願昭63-52568号(実開平1-154316号)のマイクロフィルムを参照。)ことから、甲第3号証刊行物に記載のものにおいて、この周知技術を適用し、本件考案6の構成とすることに格別の困難性は認められない。
以上から、本件考案6は、甲第3号証刊行物に記載のものに基づいて、極めて容易に考案をすることができたものである。
(7)本件考案7
上記a、b、c、dの相違点については、上記と同様である。
相違点i)相違点hの検討で記載した周知例においても、弾性部品はゴム製であり、また、オープンリングの材質としてスチール製のものは通常使用されているものであることから、相違点iについては、相違点hと同様の理由により、本件考案7の構成とすることに格別の困難性は認められない。
以上から、本件考案7は、甲第3号証刊行物に記載のものに基づいて、極めて容易に考案をすることができたものである。
5.むすび
したがって、本件考案1~7は、本件実用新案登録に係る出願の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証に記載されたものに基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであって、本件実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。
また、本件審判費用は、実用新案法第41条において準用する特許法第169条第2項においてさらに準用する民事訴訟法第89条の規定を適用して結論のとおり決定する。
よって、結論のとおり審決する。
平成9年12月25日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
請求人 被請求人 のため出訴期間として90日を附加する。